一事不再理・二重の危険の禁止・二重処罰の禁止の違い – 憲法39条前段後半・後段

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憲法39条前段後半及び後段

何人も、……既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

憲法39条前段後半及び後段は、それぞれどのような意味を持っているか。

1 憲法39条前段後半及び後段に関する3つの説

憲法39条前段後半及び後段が何を規定しているかについては、以下の3つの見解がある。

  1. 一事不再理を定めたものとする説(一事不再理説
  2. 二重の危険(・・)の禁止を定めたものとする説(二重の危険説
  3. 前段後半は一事不再理、後段は二重処罰(・・)の禁止を定めたものとする説(一事不再理・二重処罰禁止説

⑴ 一事不再理とは

一事不再理とは、「ある刑事事件について裁判が確定した場合に、同一事件について再び実体審理をすることは許されないとする刑事法上の原則(長谷部恭男編、川岸令和・駒村圭吾・坂口正二郎・宍戸常寿・土井真一著『注釈日本国憲法⑶ 国民の権利及び義務⑵・国会 §§25~64』初版、有斐閣、2020年、p.435)をいう。

これは、実体判決が確定すると、その判断内容が真実とみなされ、もはや争うことが許されなくなるという既判力の反射的効果である(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見利勝著『憲法Ⅰ』第5版、有斐閣、2012年、pp.449-450参照)

既判力の(・・・・)反射的効果であるから、一事不再理は、確定判決を前提とする。したがって、「責任を問はれない」とは、処罰されないということを意味する。

なお、憲法39条前段後半は、「有罪の確定判決があった行為については、直接規定はしていないが、それをより重く変更するのは、重くされた限度において、無罪判決を覆すのに同視しうるから、やはり許されない。」(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見利勝著『憲法Ⅰ』第5版、有斐閣、2012年、p.450)

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⑵ 二重の危険の禁止とは

公訴を提起され、被告人の立場に立つことは、肉体的・精神的・社会的・経済的に重大な負担・不利益を被ることになる。そこで、「個人にとって負担が甚大となる国家権力による訴追の危険は一度だけに限定されるべきで、再度同じ危険に陥らせることはないとする、被告人の権利を保障したもの」(長谷部恭男編、川岸令和・駒村圭吾・坂口正二郎・宍戸常寿・土井真一著『注釈日本国憲法⑶ 国民の権利及び義務⑵・国会 §§25~64』初版、有斐閣、2020年、p.435)が、二重の危険の禁止である。

訴追の(・・・)危険なので、二重の危険の禁止は、2度以上有罪判決を受ける危険のある手続的負担を負わないということを意味し、確定判決を前提としない。したがって、「責任を問はれない」とは、起訴されないということを意味する。

なお、ここにいう訴追の危険とは、同一の事件においては、訴訟手続の開始から終末に至るまでの1つの継続的状態を意味し、1審・控訴審・上告審の手続は、それぞれ同じ事件においては継続した1つの危険の各部分にすぎないので、下級審における無罪又は有罪判決に対し、検察官が上訴をし、有罪又はより重い刑の判決を求めることも許される(最大判昭25.9.27刑集4巻9号1805頁)。

⑶ 二重処罰の禁止とは

二重処罰の禁止とは、「同一行為につき、前の確定判決を覆すわけではなく、それに加えて新たな別の判決をすることを禁止するもの(渋谷秀樹『憲法』第3版、有斐閣、2017年、p.267)をいう。

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前の確定判決を覆すのではなく、更に(・・)別の判決を下すことを禁止するものなので、一事不再理の場合とは異なり、確定判決を前提とせず、同時に判決する場合も問題となる。また、二重に処罰(・・)を禁止するものなので、「責任を問はれない」とは、処罰されないということを意味する。

例えば、甲がAを死に至らしめた行為について、傷害致死罪(刑法205条)で有罪とした後に、殺人罪(同法199条)で有罪とすることは許されない。

2 一事不再理・二重の危険の禁止・二重処罰の禁止の違い

被告人の権利か確定判決を前提とするか効 果
一事不再理×処罰されない
二重の危険の禁止×起訴されない
二重処罰の禁止××処罰されない
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